舞踏の音楽について/野外公演編:多摩川の橋の下で無音で踊る/例外は白石民夫

舞踏の音楽について/野外公演編:多摩川の橋の下で無音で踊る/例外は白石民夫

BUTOH

私は好んでよく野外でおどってきました。その中でも一番数多く踊った場所は東京・府中市の多摩川の是政橋の下だと思います。この場所は広い河川敷で開かれた場所ではあるのですが、橋の下であるという特質ゆえかいい感じで外界と遮断されていて私にとってはまさに「劇場」でした。国立稽古の仲間たちと公開野外稽古もしたし、何度も自分のソロ公演と銘打ってこちらで踊ってきました。野外公演の良さはその風景やシチュエーションであることは当然のことなのですが、それ以外にもいくつも利点があるのです。まず、この多摩川においては使用料はいりません。だって勝手に踊っているのですから。その代わり観覧料も無料です。つまり持ち出しなしの完全フリーでソロ公演ができてしまうのが野外なのです。そして野外ではその環境の奏でる音があるので、自分で音楽のことを考えなくてもいいというのは、音楽に疎い私には魅力でした。この場所に限らず野外で踊る分には無音でも十分だと思います。だいたい野外の風景の中に身を置くと体が吸収体みたいな感じになってその周りの空気を吸っては吐きしている感覚かと思います。時間軸が普段の日常の感覚の10倍速いか、もしくは10倍遅いかという状態になるので、かなり純粋な即興に近い状態になっている気がします。自分自身とそこらに生えている草々と、そして端から聞こえる車のタイヤの軋む音や、向こうに見える電車が渡る鉄橋の電車が通り過ぎる音や、もうそれだけで十分な音響と舞台美術ができてしまうかと。

そうして「野外無音最強説」を信じてきた私ですが、例外があるとすればニューヨークでもご一緒した白石民夫さんかなと思います。一度、私がいつも踊っていた多摩川の河川敷で白石さんをお誘いし即興演奏との野外公演を行ったことがありました。白石さんのサックス(というかキュルキュル音)は天然自然より都市の雑踏や産業が感じられる郊外などがすごくよくあいますが(ニューヨークでも下水処理工場の脇の道路で共演しました)この多摩川是政橋下の河川敷との相性もかなりよかったかと思います。まるで鳥の声のような感じ、と観にきた人たちは言っていました。白石さんの演奏スタイルは極めてユニーク(=独自)で、そこには「音楽」だとか「メロディ」とか「リズム」といった概念はある意味超越した私のいう「超自然」な姿があり、そういった彼の佇まいは環境の中にも溶け込みつつも強さを発揮するのではないかと思います。


白石さんがニューヨークの地下鉄で演奏した即興演奏を収録した伝説的CD
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